一般財団法人建築環境・省エネルギー機構
生稲 清久

キーワード

建築物省エネ法、適合性判定、義務化、届出、誘導措置、表示制度、大臣認定

課題 建物のエネルギー消費
タイトル 建築物省エネ法の概要
日時 10月 13日(火)13:30~16:00
会場 茨城大学水戸キャンパス 環境リサーチラボラトリー棟 ICAS 1階講義室
概要 平成27年7月公布 法律第53号「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」の概要について習得
参考書&

参考WEBサイト

国土交通省
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutakukentiku_house_tk4_000103.html
国立研究開発法人 建築研究所
http://www.kenken.go.jp/becc/index.html
備考

建物のエネルギー消費

建築物省エネ法の創設の背景

1 我が国のエネルギー自給率

我が国のエネルギーは、海外の資源に大きく依存しており、エネルギー供給体制は脆弱であります。
エネルギー自給率を2011年の東日本大震災前とその後で比較すると、2010年は19.9%であったものが2012年時点で6.0%と大幅に低下しています。
OECD(経済協力開発機構)参加加盟国34カ国中でも二番目に低い33位となっています。

2 化石燃料への依存と部門別エネルギー消費

電力の化石燃料依存度は、東日本大震災以後88%に増加し、第一次オイルショック(1973年)時の80%よりも高い水準になっています。
また、エネルギー消費量を部門別に見ると、産業部門と運輸部門が横ばいもしくは減少している一方で、民生部門(業務部門=非住宅建築物と家庭部門=住宅)は、1990年比で24.8%の増加になっています。

3 エネルギー基本計画と地球温暖化対策計画

エネルギー供給の脆弱性や大震災後の電力需給の逼迫の一方、伸びる民生部門のエネルギー消費量を抑制するため、政府は基本的な方向性を示すエネルギー政策を策定し、取り組んで行くことを掲げています。

エネルギー基本計画は、エネルギー政策基本法に基づき2014年11月に、地球温暖化対策計画は、地球温暖化対策推進法に基づき2016年5月にそれぞれ閣議決定されたものですが、いずれの計画も、民生部門における具体的な方向性や取り組みを示しています。

例えば、省エネルギー性能の低い既存建築物や住宅に対して改修や建て替え、個々の建築物、住宅の省エネルギー性能の評価・表示性能の見える化(ラベリング制度)、快適な室内環境を保ちながらできる限り省エネルギーに努め、太陽光発電等によりエネルギーを創ることで、年間で消費する建築物のエネルギー消費量が限りなくゼロとなることを目指す「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」(ZEB)、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」(ZEH)の導入促進、そして、一定の省エネルギー性能を確保することを義務づける「適合の義務化」の導入などが掲げられています。

 

建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律

1 住宅・非住宅建築物の省エネ施策の展開

民生部門の省エネルギー対策は、第二次オイルショックが発生した1979年に制定された「エネルギー使用の合理化に関する法律」(通称:省エネ法)に基づき、実施されてきました。

制定当初は、延べ床面積が2000㎡以上の事務所ビルで外皮(断熱性能)と空調設備が規制対象でしたが、設備機器の性能向上や省エネ技術の普及等に伴い、省エネルギー性能(基準値)の強化や規制対象建築物、設備の拡大などが実施されてきました。

その後、建築物の大型化(床面積の増大)や24時間営業、生活様式の変化、家電等の高機能化やOA機器等の普及、東日本大震災以降のエネルギー需給の逼迫、建築物部門のエネルギー消費量の著しい増加で3部門中全体の1/3を占めていること等により、建築物部門の省エネ対策の抜本的強化が必要不可欠であることから、2015年7月新法「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(通称:建築物省エネ法)が公布されました。

 

2 建築物省エネ法

同法は、規制措置と誘導措置の二つの措置で構成されています。規制措置は、床面積が2000㎡以上※の非住宅建築物において、エネルギー消費性能基準(省エネ基準)への「適合義務」と、300㎡以上※の住宅及び非住宅建築物に対する「届出」、一定数以上の住宅を供給する住宅事業者に対する「住宅トップランナー制度」で構成されています。誘導措置は、本法の普及促進の観点から、表示制度(ラベリング制度)と省エネルギー対策設備を設置した床面積部分を緩和する容積率特例が盛り込まれています。

※外気に対して高い開放性を有する部分を除いた床面積

 

3 省エネルギー適合判定と建築確認・検査の概要フロー

建築主が建築物を新築しようとする場合は、建築基準法に基づく建築確認申請を建築主事または指定確認検査機関に行い、確認済書の受領をもって初めて工事着工を行うことが出来ました。
ここへ建築物省エネ法が新たに加わり、2017年4月施行の同法規制措置に基づき「省エネ性能確保計画」を所管行政庁等に申請し、適合判定通知書を受けたうえで確認審査が行われ、確認済書が交付されて初めて工事着工することが出来ます。
これが「適合の義務化」です。同法は建築基準法の関係規定に位置づけられているため、建築工事完了検査も対象となり、もし当初計画の省エネ工事(対策)が行われていなければ、検査済証が発行されず建物の使用が出来ません。

 

4 建築物省エネ法に基づく基準と算定方法

建築物の省エネ性能は、建築物全体における一次エネルギー消費量により評価を行います。
まず、告示で定められた建物の使用条件や各種設備機器の性能値等から「基準一次エネルギー消費量」を求めます。
次に、実際に建てる建築物における同様の諸性能から「設計一次エネルギー消費量」を求めます。
これらから設計値÷基準値が1.0を超えなければ、適合、超えれば不適合と判断され工事着工が出来なくなります。
このとき「基準一次エネルギー消費量」は建物用途や地域(高低差も考慮)等で変わります。

基準一次エネルギー消費量や設計一次エネルギー消費量を求めるため、国土交通省はどなたでもいつでも自由に利用できる「標準入力法計算プログラム」と「モデル建物法計算プログラム」を用意しています。
前者は、建物の諸データを詳細に入力するため、精密な計算結果が得られるため、省エネ対策とコストのバランスを考慮した限界設計などの検討にも有効なプログラムですが、入力項目が多く手間がかかります。
一方、後者は簡易計算法として位置づけられ、予め決まった建物モデルに限られた諸性能を入力するだけで結果が得られますが、結果は1割程度大きめ(安全側)に出るようになっています。

 

5 エネルギー消費性能向上計画の認定制度等

建築物省エネ法には、規制措置のほか誘導措置も設けられています。建築計画が優れた省エネルギー性能を有する建築物について、省エネルギー基準(最低基準)の水準を超える誘導基準に適合している旨、所管行政庁による認定を受けることができることと、認定を受けた建築物については、省エネ性能向上のための設備について、通常の建築物の床面積を超える部分を不算入(建築物の延べ床面積の10%を上限)とする特例措置(株)容積率特例)があります。
また、省エネ基準レベル以上の性能をアピールして差別化を図ることできる「BELS」認定マーク制度や、建築物省エネ法が適用される前に建てられた既存建築物において同法の性能を満たしていることをアピールすることができる基準適合マーク(eマーク)の表示制度も設けられ、同法の運用と普及に寄与しています。

 

モデル建物法プログラムの応用活用

建築物省エネ法の適用判断に用いられる一次エネルギー消費量計算は、前述の通り2つのプログラムを用いています。

省エネ基準の適合性判定には、簡易なモデル建物法プログラムが用いられることが想定されますが、簡易ゆえ、得られる結果は一次エネルギー消費量(絶対値)ではなく「BEIm」(Building Energy Index for Model Building Method)値という指標で表されます。

建築物の設計では、初期の設計段階から省エネ計画の効果について把握する必要がありますが、このモデル建物法プログラムでは、具体的な各設備の一次エネルギー消費量が求められません。しかし、精緻な計算が行える標準入力法プログラムでは、入力データの作成に手間がかかるため、迅速な省エネ効果を把握することが困難です。

そこで、簡易なモデル建物法プログラムを用いて、一次エネルギー消費量の推計を行う応用活用も可能になっています。

国立研究開発法人建築研究所が公開している建物用途別エネルギー消費量の統計データを用いて、簡単な加減乗除で各設備別エネルギー消費量(概算値)を把握する方法です。単に省エネ基準の適合性判断にだけ使用するのではなく、日常の設計業務のなかで、エネルギー消費状況を把握する便利なツールとして活用していただけるプログラムです。

 

さいごに

我が国のエネルギー事情はますます危機的な状況が続くことが予想されます。
オイルショック時の省エネは単に我慢すること、節約することが目的のように実施されていましたが、これからの省エネは、国民の快適で豊かな生活環境を構築していくために必要なエネルギーは使いますが、一方、無駄なエネルギーは使わないというスタンスで民生部門の省エネ対策を推進していくことが必要不可欠であります。

 

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