ご当地エネルギーの現場と大正

~昭和期の小水力遺構とエネルギーとビルディングの現場を視察する

一般社団法人エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議

 代表理事 鈴木 悌介

1.エネルギー資源の利用

エネルギーの中で電力という形で使われているのは全体の3割~4割程度(神奈川県の場合は33% 2011年、小田原市の場合は46% 2012年)であり、それ以外は温熱冷熱として使われているという。エネルギーを熱という観点を含めて観ると、太陽光は発電だけでなく温水器の熱源として利用した、地下水の空調設備利用など地域の自然を活かしたエネルギー資源の有効活用の可能性は広がっている。

省エネは、不足する電力を最も効果的・即効的に穴埋めできる点で、新しいビジネスチャンスをもたらす。これに再生可能エネルギーでの創エネをからめていけば、地域にもっと仕事が生まれると可能性が広がると確信する。

2.大規模集中型・中央集権型から小規模分散型・独立型へ

 東日本大震災と福島原発の事故をひとつの契機に、エネルギーシステム、特に電力システムについて、原発のような大規模な発電施設を中心とする仕組みの危うさを広く世間の知るところとなり、今や全国的に、小規模分散型・独立型の仕組みが希求されている。震災後、地域でのエネルギーの自給の仕組みづくりにいち早く取り組んだ著者の地元の小田原での動きを紹介する。地域でのエネルギーシステムのあり方についての議論が、2011年の夏に始まり、その議論の中で地元の市民や企業による地元主導でエネルギー事業に取組む主体が必要という意見がまとまった。

その実現のために、食品、マスコミ、エネルギー関連、金融機関など様々な分野の地元企業に商工会議所、県を加えた、小田原再生可能エネルギー事業化検討協議会(環境省の「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」受託)を発足した。

その後、地域の再生エネ事業を担う「ほうとくエネルギー株式会社」が地元企業24社の出資による3,400万円の資本金で、2012年12月に設立された。2013年には5,800万円に増資、太陽光発電関連の会社のほとんどは、同社に出資するなど出資企業は計38社に上る。同社は、資金は地元の金融機関や市民ファンドで調達、発電設備の機材調達・建設・施工・管理運営を地元企業に発注するなど、徹底的に「小田原産」にこだわっている。結果として、お金が地域で循環するため、再生エネ推進とともに、地域経済が活性化することも目標としている。

第一次事業としては、公共施設の屋根を借りての太陽光発電(2014年1月発電開始 発電出力4か所計165KW)と、山間地での太陽光発電(2014年10月発電開始 発電出力984KW)である。これにかかった約4億円の事業予算は資本金の一部と地元金融機関(さがみ信用 金庫)からの借り入れに加え、1億円を市民ファンドから調達。出資者の半分が県内から、そのまた半分が市内からと地元比率が高かったことから、地域での再生可能エネルギーへの取り組みに対しての地元の市民の意識と関心の高まりを感じさせる出来事であった。

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現在、第一次事業と並行して、小水力発電の事業化の検討の作業に入っている。

次に紹介するのは、民間単独企業と地元の大井町との連携の上で実現した「きらめきの丘 おおい(https://furukawa-megasolar.com/)」という取り組みである。

2014年3月、大井町(間宮恒行町長)とエネルギー事業を展開する㈱古川(古川剛士社長、本社・小田原市)との間で、太陽光発電を行う事業協定が締結され、同町下山田の町有地(6万8631㎡)に、出力約2.12メガワット(一般家庭約600世帯分:町総世帯の約9%分)の太陽光発電施設が設置された。契約期間は発電開始から20年間。総事業費は約7億7000万円(造成含む)。㈱古川は明治44年の創業以来、地域でプロパンガスを中心としたエネルギー事業に携わってきた。その基盤の上に地元企業として新しいエネルギー事業を地元行政と協力しながら進めていることは特徴的なことだ。

3.商工会議所の取組み

中小企業の現場を観ると省エネが遅れていることを否めない実態がある。大企業にくらべ、中小企業の経営者の業務は多岐にわたるため、エネルギーのことまで手がまわらず、技術的な複雑さも相まって取り組みが遅れているというのが現実である。その解決策の一助として著者が会頭を務める小田原箱根商工会議所ではエネルギー・環境特別委員会を設置し、会員企業の省エネ、創エネについての実態把握から啓発、具体の導入促進までの一連の活動を開始した。企業数で言えば全企業の98%を占める中小企業のエネルギーに対する正しい認識の啓発は重要かつ効果的であり、各企業の省エネの実践と再生可能エネルギーの導入促進については商工会議所や商工会などのいわゆる地域の経済団体の役割は大きいことを認識すべきであり、この分野でも行政との連携が待たれる。

4.エネルギーの地産地消の実現を目指して

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再生可能エネルギーの買い取りの系統接続保留の問題が発生している。これまで全国各地でメガソーラーを含めて地域で電気をつくることは始まったが、つくった電気はほとんどが既存の大手電力会社に買ってもらうしかなく、地産地消の観点で言えば、地消が欠けて目的達成は半分といわざるをえない状況である。本当の意味での地産地消をやるのであれば、地消のところをしっかり考えて動かないと、いつまで経っても大手電力会社次第という状況から抜けられない。そういう意味で、今、著者が注目しているのが、神奈川県の㈱湘南電力の動きである。新電力(PPS)エナリスと湘南ベルマーレがつくった合弁会社である。電気の卸しに関してエナリスが持つノウハウを湘南電力が活用して、たとえば地元の「ほうとくエネルギー」でつくった電気を既存電力会社よりも高く買い、地域の企業には既存電力会社よりも少し安く売る。出た利益の一部を湘南ベルマーレの地域貢献事業にまわす仕組みである。自分でつくって自分たちで使っていく、こうしたモデルが広がっていくと地消が進んでいく。こうした試みも新しいビジネスチャンスのモデルとして県下に普及させたらいいと考える。

5.地域でのエネルギー連携を

著者が携わる水産食品製造業においては、原料と製品の保管・流通は冷蔵か冷凍、加工段階では加熱(焼成、蒸し、茹でと様々な方法)と冷却と、多種多様なエネルギーを使っている。またそれらのエネルギーの需要のタイミングや量も一定ではない。もし、エネルギー需要を補完できる関係の事業所と立地を共有することができれば、お互いにメリットを享受できよう。例えば、熱が必要な事業所と冷気が必要な冷蔵・冷凍倉庫業であれば、適正な規模のマイクロコージェネを共用することでエネルギーロスを減らし、エネルギーコストを削減できるであろう。このようなシステムを単独で導入することが難しい中小企業が協働できる環境整備が待たれる。工業団地もこのような思想での計画が有効であろう。

6.住宅のエネルギーはテーラーメードで

住宅は、本来、立地する地域の気候、立地の特性(日当たりや井戸水の有無など)、その住民の家族構成と生活パターンによって必要なエネルギーのタイプ(電力、冷気、暖気、湯など)と量とタイミング(どの時間帯に多く使用するか)はすべて異なるはずである。住宅の設計段階からそれらの要素を勘案してシステムを組むことでその住宅に最適かつ合理的かつ経済的な仕組みが実現できるはずである。しかし、現実には市中にはエネルギーをトータルデザインできる能力は欠落している。住宅についても個別にエネルギー需要を計り、それに最適なシステムを設計し、建築に活かすことはエネルギーを有効に使うために非常に重要であると同時に新しいビジネスチャンス、特に地域産業にとって有益なビジネスチャンスにつながると考えられる。

7.中小企業の実例から

最後に著者の経営する食品会社での事例を紹介し、この報告を終わりたい。かまぼこの製造販売と飲食・物販の観光事業に携わる弊社では、工場や店舗の屋根で太陽光発電をしているが、加えて、3つの事例を紹介する。

1)地中熱と地下水を利用した空調システム

一年中温度が安定な地中熱と地下水を利用した空調システムを大型レストラン(席数250)に導入。年間の電力使用量を約20%削減。

2)太陽熱を利用した温水器

太陽光発電ではなく、太陽光利用の温水器を、レストランの厨房の食器洗い機で使用する温水の供給に導入。従来の仕組みのガスで温水をつくるのに比べて、季節による変動は大きい(夏で60%減程度、冬で15%減程度)が、年間平均にすると20%減。

3)ZEBビルの認定の本社棟

2015年夏竣工予定の本社事務棟のエネルギーシステムが経産省のネットゼロエネルギービルデイングの認定を受ける。壁の断熱、ガラスの遮熱、自然光の利用、太陽光発電に加えて、地下水利用の空調・温水供給の仕組みを最初の段階から取り入れて設計した結果、エネルギー削減率54%を達成。改めてエネルギーというものは電力だけでなく、トータルで見ることの重要性を再認識することとなった。

4)エネルギー自給と災害時対策をめざし、ガスマイクロコージェネレーションを導入した大型レストラン

前述の事例1)の大型レストランではさらに、平常には都市ガスで発電し、館内の照明や調理器具、空調、上下水等の電気機器に使用し、副産物である温水を厨房で使用している。災害発生時に停電し、かつ、都市ガスの供給停止が発生した場合にはプロパンガスに切り替え、継続的に発電をし、併せて、温水の供給をすることにより、社員はもとより、近隣住民向けの避難所としての必要最低限のエネルギーを賄うことができる態勢を整備した。

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[図2]災害対応ガス・コジェネレーションシステム概要図

中小企業による省エネの取り組みと電力だけでないエネルギーという思想の具体事例として参考になれば幸甚である。