茨城大学 農学部

小林 久

1.水循環のエネルギー

  • 地球は,太陽から受け取るエネルギーと同じ量のエネルギーを宇宙空間に放出することで,定常状態を保っている。
  • 太陽から受け取るエネルギーの分布を均衡化するために,大気・水の循環は循環する。水循環に使われるエネルギー大きく,地表に到達する太陽エネルギーの1/2程度になる。
    •  海水面からの水の蒸発は,水圏から気圏に向かう水とエネルギーの移動(蒸発熱の獲得),上空で水蒸気が水になる(気体が液体になる)ことはエネルギーの放出(凝結熱の放出)で,凝結した水は位置エネルギーを獲得して雨や雪となって陸にふりそそぐ。降雨・降雪は,河川水として高所から低所へと流下することで位置エネルギーを失う。
    •  水力発電は,この河川水の流下を利用するエネルギー生産で,仕組みは高い位置で取水した水が低い位置の放水地点へ流れ落ちるときのエネルギー,取水位と放水位の高度差分の水の「位置エネルギー」を利用して水車(水力タービン)を回転させ「回転エネルギー」として動力に変換し,この動力で発電機を回転させて「回転エネルギー」を「電気エネルギー」に変換するというものである。

2.水力と小水力開発の知識

水力の特徴

  • 歴史がある発電方式で完成度が高く,持続性が高い。
  • 風力などに比較して密度が大きいため,施設は小規模ですむ。
  • 生産量の制御が容易。
  • 稼働時間が長く,変動が少ない。
  • ただし,適地が限られ,開発量に上限がある。
    日本の開発可能量は1,500億〜2,000億kWhで,すでに約1,000億kWhが開発済み。

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図1 日本の開発量とポテンシャル(エネ庁)

開発対象とする「水」と使用許可

  • 手続・調整

水を勝手に使うことは許されていない。

使用するためには、管理者からの許可が必要。
発電に使用したいときには、発電目的のための許可が必要。・・・「水利使用の許可」(水利権)
–許可手続きが容易な水,許可がいらない水もある。

  • 許可がいらない水でも、既存の水利用者との調整が必要

–水路,堰などを利用する場合,施設所有との調整が可能か?

–実施者が,容易に調整できる土地か?

  • 流量特性

–流量変動の少ない流れ(一年を通して,変動の少ない流れ)

–ゴミの流下が少ない方がよい。

  • 環境配慮

–河川環境の維持・保全に問題がない。

–取水による流れの遮断が回避できる。

–魚類などの生息への配慮ができているか,できるか。

小水力発電の出力と発電量

  • 小水力発電の出力や発電量は,落差と流量から計算される利用可能なエネルギー量である理論水力を元に,様々な損失を考慮して求められる。理論水力は,有効落差に流量(つまり1秒間に流れ落ちる水の重さ)と重力加速度を乗じて求められる。
  • 実際の発電出力は,回転エネルギーに変換するときの水車効率,電気エネルギーに変換するときの発電効率などを考慮し,理論水力にこれらの効率を乗じて算出される。一般的に,水車効率は80~90%,発電効率は90~95%で,両者を合わせた効率は合成効率(あるいは総合効率)と呼ばれ,通常70~85%になる。
  • 河川流量は,日,季節,年によって変化する。ある地点で観測される流量を流況といい,使用水量と年間発電量は,流況/流量設備利用率から検討する。(流況曲線: 1年間の日流量を大きい順に並べて図示たもの)
  • 年間発電量[kWh]は,この発電出力に年間稼働時間をかけて求められる。小水力発電の年間稼働時間は,一般的に5,000~7,000時間で,8,000時間を超える発電所もある。

小水力発電の発電方式

  • 水力による発電方式は、一般的に取水~放水の落差を得るための仕組みの違いから、ダムに水を貯めて水車に導いて発電に利用するダム式(貯水池式)、河川や水路に堰や取水口を設けて取水し水路で水を導く水路式(または流れ込み式)、ダムと水路を組み合わせたダム水路式の3つに分類される。
  • 小水力発電の場合は、ダムなどの大規模な土木設備をともなわない水路式が多い。

水車の種類

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図2 水車の分類 JEC-4001-2006「水車およびポンプ水車」

  • 水車(水力タービン)は,「水の流れ」を回転エネルギーに変換する羽根車(ランナ)の形状と水車の構造によって,大きく「反動水車」と「衝動水車」,さらに水に働く重力を利用する重力水車に大別される。
  • 「重力水車」は,水の重さを羽根に作用させることにより回転力を得る水車タイプで,上掛け水車,下掛け水車などが該当し,開放型水車とも呼ばれる
  • 衝動水車」は,位置エネルギーを速度エネルギーに変換し、羽根に作用させることにより回転力を得る水車タイプです。水をノズルから射出し羽根に衝突させるペルトン水車が代表的である。
  • 「反動水車」は,位置エネルギーを速度と圧力のエネルギーに変換し、羽根に作用させることにより回転力を得る水車タイプで,フランシス水車,プロペラ水車などがある。
  • 水車タイプは,落差に対する流量の大きさで選ばれ,一般的には高落差・小流量の場合は衝動型、低落差・大流量は反動型水車が適している。

3.小水力発電開発のプロセス

小水力開発は図3〜4の①〜④および「⑤事業実施の決断・計画確定」,「⑥事業実施」のプロセスに分けられる。

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図3 事業構想段階

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図4 事業計画段階

開発プロセスのうち,とくに①〜②の初期段階では,次のような検討が求められ,なぜ開発するのかの判断,事業実施の妥当性評価に基づく決断が重要といえる。

①開発を考え始める

  • ビジョンを描く(構想)- ビジョンと目的に関する関係者との協議
  • 客観的助言(適切なアドバイスを探す,コンサルタントの探索)
  • 情報の共有と合意形成 – 体制イメージ,関係者の共感,調整と意見集約・同意)
  • サイト選定(開発地点の特定,開発可能量の推計)

→初期判断(なぜ,開発するか?)

②開発をかたちづくる

  • 事業主体形成(整備,法人化)
  • 資金調達の検討
  • プレF/Sの実施
  • 事業の財務的妥当性確認

→決断(事業実施は妥当か?)